
人材不足や従業員の労働時間が問題視されている今、生産性の向上は多くの企業で重要視されている課題です。生産性が向上すれば、少ない人数でも時間内で十分な利益を得られます。
ただし、生産性向上を実現するためには何からスタートすれば良いのかわからない方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、生産性向上とは何かといった基本的な内容から、生産性を向上させるメリット、生産性を向上させるための取り組み方を解説します。また、記事の後半では生産性向上による成功事例もご紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
生産性向上とは?基本の考え方と重要性
「生産性向上」という言葉をよく耳にすると思いますが、具体的にどのような意味を持つのか、改めて確認していきましょう。
生産性向上の意味
生産性向上とは、小さな労力で大きな成果を得られる状態のことです。
具体的には、以下のような状態を生産性が向上した状態といえます。
- 「3人の従業員で1つの荷物を運んでいた」状態から、「1人の従業員で1つの荷物を運べるようになった」
- 「3人の従業員で1つの荷物を運んでいた」状態から、「3人の従業員で3つの荷物を運べるようになった」
生産性は「アウトプット(生産量や付加価値)」÷「インプット(投入する設備や人数、時間)」で算出でき、算出した数字が大きくなるほど生産性は向上しているといえます。
業務効率化との違い
生産性向上と似た言葉に業務効率化がありますが、業務効率化は生産性を向上させるための1つの手段です。
業務効率化を実現するために無理・無駄・ムラの3Mを削減すると、生産におけるインプットも削減できます。インプットが削減されると生産性の数字が大きくなるため、業務効率化は生産性向上につながるというわけです。
なぜ今、生産性向上が求められるのか
日本の生産性は、OECD(経済協力開発機構)に加盟している37か国中26位と非常に低いため、日本経済を活性化させるためにも生産性の向上が求められています。
日本の生産性は、アメリカの2/3程度しかありません。どれだけ質の良い製品を作り出せたとしても、コストが多くかかっていては利益が出ないので、日本経済の成長を促すためにも生産性の向上が重要視されています。
生産性向上が実現するメリット
生産性の向上が実現すると、以下3つのメリットが得られます。
それぞれ解説していきましょう。
人材不足による問題の解消
生産性が向上すると少ない人材で多くの利益を生み出せるようになるため、人材不足による問題が解消される点がメリットです。
厚生労働省が発表している資料によると、日本の人材不足はほぼすべての業種で高まっており、中でも中小企業においては人材不足の数値が顕著に表れています。
しかし、生産性の向上が実現すると、社員が少なくても十分な利益を出せるようになるため、人材不足による問題が解消されます。
コストの削減
生産性が向上すると、同じ業務量を少人数でこなせるようになったり、同じ材料でより多くの製品を製造できるようになったりするので、コストを削減できる点がメリットです。
削減したコストは、別の場所に人材を配置したり、最新設備を現場に導入したりして還元すると、さらに生産性が向上するので、利益率の改善にもつながります。
働き方改革と職場環境の整備
生産性の向上は、従業員の労働時間削減を実現できる点もメリットです。
効率よく仕事が進むようになれば従業員の拘束時間も短くなるため、働き方改革で重要視されているワークライフバランスの向上も期待できます。また、従業員のワークライフバランスが向上すると職場環境も良くなるため、離職率も低下し、従業員のモチベーションも高くなりやすいです。
生産性向上の具体的な取り組み方法4選
生産性向上を目指すためには、具体的に以下のような4つの取り組み方法があります。
1つずつ解説していきましょう。
ムダの洗い出しと業務のマニュアル化
日々の業務内容にムダがないか洗い出し、どこで誰が業務を担当しても品質にバラつきが出ないよう、業務をマニュアル化してみましょう。
業務の中には習慣化されているものでも、実は重要度が低い作業が紛れ込んでいるケースが多々あります。重要度が低い作業を省けば、そのぶん重要度の高い作業に割ける時間が増えるため、生産性の向上が期待できます。
また、業務をマニュアル化しておけば、業務を教える時間や人材を最小限に削減できるうえ、修正にかかる時間も大幅に削減可能です。
ITツール・RPAなどテクノロジーの導入
ITツールやRPAなどのテクノロジーを導入し、業務をデジタル化できるものは積極的に変えていきましょう。
社内会議はZoomなどのオンライン会議ツールを活用したり、チェック作業やデータ入力はRPAを取り入れて自動化したりすると、無駄や人為的ミスを削減できます。すると、より日々の業務が効率よく進むため、生産性向上が実現します。
アウトソーシングの活用
受付やコールセンター業務、経理や社員の健康管理など、事業利益に直結しない業務は、アウトソーシングを活用しましょう。
事業利益に直結しない業務をアウトソーシングできれば、そこに割いていた時間や人材を重要な業務に充てられるようになるため、生産性の向上が期待できます。
ただし、アウトソーシングを活用すると費用がかかるので、依頼前には費用と生産性の向上を比べ、どこまで外部に作業を依頼するべきか十分に検討しましょう。
スキルアップ支援と人材再配置
従業員に研修を受けさせてスキルアップしてもらったり、従業員の持つスキルをもとに適切な場所へ人材を再配置したりすると、生産性の向上が期待できます。
従業員のスキルが向上すると、業務が効率よく進むだけでなく、一人一人がより品質の高い業務を担当できるようになるため、会社の利益率が高くなります。
また、従業員のスキルに応じて適切な場所に配置換えを行うと、今より業務がスムーズに進むだけでなく、従業員のモチベーションも上がりやすいので、会社全体の生産性も向上しやすいです。
生産性向上に関する国の支援制度と補助金
生産性向上の実現を目指す際は、国の支援制度や助成金を活用しましょう。
生産性の向上にはコストがかかりますが、支援制度が助成金を活用することで、無理なく実現できます。
生産性向上の支援策
生産性向上の支援策には、以下のような種類があります。
先端設備等導入制度による支援
先端設備等導入制度による支援とは、生産性の向上や賃上げ促進のために中小企業が先端設備を導入すると、固定資産税の特例を適用させたり金融支援を行ったりする支援です。
支援を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 先端設備の導入により、3年~5年の間に労働生産性が年平均3%以上向上すること
- 先端設備を導入する計画を策定すること
- 先端設備が所在する市区町村における「導入促進基本計画」等に合致すること
経営力向上支援
中小企業や中堅企業が行う人材育成や財務管理、設備投資などの取り組みに対し、税制支援や金融支援を行う支援策です。
支援を活用すると、商工会議所や商工会、中央会、士業、地域金融機関などから計画策定の支援を受けられます。また、ローカルベンチマークなどの経営診断ツールを使い、計画を策定することも可能です。
生産性向上の助成金
生産性向上を実現するための助成金には、以下のような種類があります。
業務改善助成金
業務改善助成金とは、生産性向上を目的とした設備投資を行うとともに、事業場内最低賃金を一定以上引き上げると、設備投資にかかった費用の一部を助成してくれる制度です。
助成金の金額は、設備投資費用に一定の助成率をかけた金額と助成上限額とを比較し、いずれか安い方が支給されます。
人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)
人事評価制度と賃金制度を整備し、生産性の向上や賃金アップ、および離職率の低下を図る事業主に対して支払われる助成金です。
人事評価制度等整備計画を作成し、管轄の労働局から認定を受け、実際に計画内容を実施すると、50万円の助成金が支払われます。
また、期日までに生産性の向上や賃金の増加、離職率の低下を実現できると、80万円の助成金が支払われます。
ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金
中小企業が生産性の向上や持続的な賃上げに向けて革新的な新製品・新サービスを開発したり、海外需要開拓を進めたりするために、必要な設備投資費用を支援する制度です。
核心的な新製品や新サービスの開発に対して必要なシステムや設備を投資する場合は、最大2,500万円の助成金が支払われます。また、海外事業を実施し、国内の生産性向上に必要なシステムや設備を投資する場合は、最大3,000万円の助成金が支払われます。
成功事例に学ぶ!生産性向上の実践例
ここでは、厚生労働省が発表している資料の中から、実際に生産性向上を実現した事業者がどのような成功を収めたのか、実践例をいくつかご紹介していきます。
スーパーマーケットの成功事例
A店では、アルバイトがレジ作業や集計作業を手作業で行っていたため、作業効率が悪くなっていました。そこで助成金を活用し、A店に集計レポート機能および顧客管理機能付きレジスターを導入したところ、精算・管理業務が効率化しました。
また、充実したサービス提供も可能になり、新規顧客の拡大および業務向上にもつながった結果、従業員の最低賃金も40円の増額に成功しています。
レストランの成功事例
B店では、店舗の客席レイアウトの都合上、顧客の背後から配膳するシステムになっていたため、料理をこぼす危険性が高く、配膳にも時間がかかっていました。そこで助成金を活用し、B店の客席レイアウトを変更したところ、配膳時間も短縮でき、顧客により細かいサービスの提供が可能になりました。
さらに、客席レイアウトの変更で生産性も向上したため、全パート従業員の時間給の引き上げにも成功しています。
工場の成功事例
C工場では生産ラインの生産能力に限界があったため、大量受注を引き受けた場合、従業員が残業をして増産にあたっていました。そこで助成金を活用し、C工場に中古の大型高性能クッキングマシンを導入したところ、製造時間は1/2に短縮され、製造量も3倍に拡大したため、生産性は大きく向上しました。
また、従来のように多くの従業員を増産に充てる必要がなくなったので、柔軟な人員配置も可能になっています。
まとめ
生産性向上とは、小さな労力で大きな利益を得られる状態を表す言葉です。
日本の生産性はアメリカの2/3程度しかないので、日本経済の成長を促すためにも生産性の向上は重要視されています。
生産性を向上させる具体的な取り組み方法としては、以下4つの方法が挙げられます。
- ムダの洗い出しと業務のマニュアル化
- ITツール・RPAなどテクノロジーの導入
- アウトソーシングの活用
- スキルアップ支援と人材再配置
これらの方法を実践すると、効率よく生産性が向上するので、1つずつ試してみましょう。
ちなみに、生産性の向上にはコストがかかりますが、国の支援制度と補助金を活用すれば負担を抑えられるので、ぜひ活用してみましょう。