吸収合併とは?仕組みやメリット・デメリット、注意点を解説【2025年版】

企業の再編や成長戦略として活用される吸収合併は、複数の会社を一体化する手法の中で、実務上最も多く用いられています。

そこで本記事では、吸収合併の基本的な意味から他の合併手法との違い、メリット・デメリットや実際の手続き、注意点までをできるだけ丁寧にわかりやすく解説します。

目次

吸収合併とは?基礎知識と概要

吸収合併とは、他社を取り込む形で統合する組織再編のことです。ここでは、その基本的な仕組みや特徴を見ていきましょう。

吸収合併の意味と仕組み

吸収合併とは、2つ以上の会社が合併する際に、いずれか一方の法人格が存続し、他方が消滅する形態の合併のことです。存続会社は、消滅会社の資産・負債や権利義務などをすべて包括的に引き継ぐため、従業員や得意先などとの契約関係もそのまま継続されます。

この手法は、会社の法人格を維持しつつ事業を拡大することが可能で、登記手続きは簡便で資産の引継ぎもスムーズに行えることから、企業再編や事業承継でなどで幅広く活用されています。

消滅会社と存続会社の違いとは

吸収合併では、消滅会社と存続会社の役割が明確に分かれています。まず、合併に伴い消滅会社は法的に解散し、法人格も消滅します。ただし、その全資産・負債・契約関係は存続会社に移転されるため、合併により事業が混乱することはありません。

これに対し、存続会社は法人格を維持した状態で消滅会社を取り込む形となるため、一般的には経営統合後の方向性を握ることになります。

子会社化や買収との違い

吸収合併は、消滅会社のすべての資産・負債や権利義務を存続会社が引き継ぐ点が特徴です。一方で、買収や子会社化は、株式の取得を通じて経営権を得るものであり、法人格はそのまま維持されます。

つまり、吸収合併では吸収される側の会社自体が消滅するのに対し、買収や子会社化では会社は存続しつつ、経営の実権だけが移るという違いがあります。

吸収合併の目的と活用場面

吸収合併は、単なる企業統合の手段にとどまらず、経営課題の解決や成長戦略の一環としても活用されています。この章では、具体的な活用シーンについて紹介します。

企業の再編・事業承継での活用

吸収合併は、企業グループ内での再編や中小企業の事業承継の場面で、数多く用いられています。たとえば、親会社が複数の子会社を吸収することで重複している業務を解消し、経営効率を高めることができます。

また、後継者不在の中小企業が大手企業に吸収されれば、従業員の雇用を守りながら事業を継続することが可能です。このように、吸収合併は、経営資源の集約と承継の両立を実現する手段として効力を発揮することができます。

経営資源の集約とスピード統合

吸収合併の特長は、存続会社が統合の主導権を握る点にあります。これにより、合併後の組織体制の決定や人員配置が迅速に行えるため、戦略の実行スピードを大幅に向上させることが可能です。

したがって、外部環境の変化にもスピーディーに対応することができます。

吸収合併と新設合併の違い

合併には、大きく分けて「吸収合併」と「新設合併」の2種類があります。この章では、新設合併の基本的な仕組みと、吸収合併が実務で多く選ばれる理由について詳しく解説します。

新設合併の仕組み

新設合併とは、2社以上の会社がそれぞれ解散し、新たに設立される1つの会社にすべての資産・負債・契約関係などの権利義務を承継させる合併形態のことです。たとえば、A社とB社が解散し、C社を新たに設立して事業を引き継ぐ、というイメージです。対等な立場の企業同士が統合する場合や、既存の企業名や体制を一新したい場合などに適しています。

ただし、新設合併を行うためには新たに法人を設立しなければならないため、会社設立に関わる手続きやコスト、行政への届出などの事務負担が増える点には注意が必要です。また、新会社が許認可事業を引き継ぐ場合には、改めて行政手続きを行わなければなりません。

実務で吸収合併が選ばれる理由

実務で合併を行う場合、圧倒的に多くのケースで吸収合併が選ばれています。その主な理由は、手続きの簡便さや事業継続のしやすさからです。

吸収合併では、存続会社が消滅会社の事業に関する資産・負債や諸々の契約などを引き継ぎますが、存続会社は法人格を維持したままで統合を進めます。

そのため、許認可の承継や契約関係の維持が比較的容易であり、関係各所への影響も最小限に抑えることが可能です。また、取引先や顧客から見た場合も、事業の継続性が担保されている印象を与えやすく、信頼を維持しやすいでしょう。

こうした実務上のさまざまなメリットから、多くの企業が吸収合併を採用しているわけです。

吸収合併のメリット

吸収合併には、実務上で選択されることが多いなりの、さまざまなメリットがあります。ここでは、吸収合併によって得られる代表的な利点について解説します。

組織統合の観点からのメリット

吸収合併では、消滅会社の事業や資産などが存続会社にそのまま移転されるため、経営資源の統合が非常にスムーズに進みます。そのため、意思決定のスピードが向上し、部門や人員の重複が解消され、組織全体の効率化を促進することが可能です。

また、ブランドやノウハウ、取引先といった無形資産もそのまま引き継げるため、事業の一体運営も無理なく行えます。このように、統合によって経営の効率化やコントロール性が高まることも、経営者にとっては大きな利点と言えるでしょう。

金融・税務上のメリット

適格合併の要件を満たした吸収合併の場合、税務上の特典が受けられます。具体的には、繰越欠損金の引継ぎや移動する資産の簿価での引継ぎなどが認められるため、税負担を大幅に軽減することが可能です。

また、存続会社が消滅会社の信用や取引履歴をそのまま引き継ぐため、融資条件などが悪化しにくいという点も魅力です。

吸収合併のデメリットやリスク

吸収合併には多くのメリットがある一方で、注意すべきデメリットやリスクも存在します。ここでは代表的なリスクについて、実務と財務の両面から解説します。

実務・PMI上の負担

吸収合併では、統合後の業務や組織体制の調整が必須です。ですが、統合プロセスにおいて、部門の重複や役職者の整理、人事制度の違いなどが障壁となり、従業員の混乱や士気の低下を招くことがあります。

特に、企業文化が大きく異なる場合は、価値観のズレが摩擦を生み、統合プロセス(PMI)が長期化するリスクがあります。また、システムの統一や、各種契約書・社内規定の見直しといった実務面の負担も大きく、想定以上にコストや時間がかかることも少なくありません。

財務面のリスク

吸収合併においては、消滅会社の資産・負債や各種契約を包括的に承継するため、簿外債務や偶発債務といったリスクまで引き継ぐことになります。もし合併前のデューデリジェンスが不十分であれば、予期せぬ債務が後から発覚し、存続会社の財務体質を圧迫することになりかねません。

また、合併によって財務構造が変わるため、悪化した場合は金融機関との取引条件が見直され、資金調達力に影響を及ぼす恐れもあります。

吸収合併の手続きの流れ

吸収合併を円滑に進めるためには、法的手続きの流れを正確に理解し、関係者への説明や準備を丁寧に進めることが重要です。そこで本章では、実務上の主要なステップについて解説します。

合併契約書の締結

吸収合併の第一歩は、合併契約書の締結です。これは存続会社と消滅会社の間で取り交わす正式な契約であり、合併の方法や効力発生日、承継する資産や負債、株式の割当てなどの重要事項を定めます。

なお、契約内容は法的効力を持つため、曖昧な記載を避け、慎重に作成しなければなりません。また、合併契約書は契約締結時以外にも、後の手続きや登記などに必要となります。

開示資料の備置と通知

合併に際し、関係者に対して、合併に関する情報を開示する義務があります。そのため、こうした情報を開示するための資料を作成しなければなりません。

具体的には、直近の貸借対照表や損益計算書、合併契約書などを本店や事業所に備え置き、一定期間(原則として2週間)閲覧可能にしておかなければなりません。

株主総会での承認決議

合併契約を正式に実行するためには、原則として両社の株主総会で特別決議による承認を得なければなりません。

ただし、存続会社が消滅会社の議決権の90%以上を有している場合など、一定の条件を満たせば「簡易合併」として株主総会を省略することも可能です。

債権者保護手続き

吸収合併では、消滅会社の債務もすべて存続会社に引き継がれるため、債権者保護手続きが義務付けられています。これは、官報などへの公告、および個別通知を通じて、合併に反対する債権者に異議申立ての機会を与える重要な手続きです。

なお、公告期間は1か月以上必要で、その間に債権者から異議が出た場合は、弁済・担保提供などの対応をしなければなりません。

合併効力発生日の到来

合併の効力は、合併契約書で定められた効力発生日に発生します。この日をもって、消滅会社の権利義務はすべて存続会社に包括承継され、消滅会社は法人格を失います。

なお、効力発生日には、法務局での登記も同時に行われるため、関係書類の提出やスケジュール調整などが必要です。また、合併後の実務(従業員の雇用継続、契約書の名義変更など)もこの日を起点として進められるため、組織内の連携と準備が不可欠です。

吸収合併を検討する際のポイント

吸収合併は企業の組織再編であり、準備や判断を誤ると深刻なリスクを伴います。そこで最後に、吸収合併を成功に導くために重要なポイントについて解説します。

適切なパートナーの選び方

吸収合併を行うにあたり、もっとも重要なのはパートナー企業の選定です。経営理念や企業文化、事業領域、将来ビジョンが自社と合致するかどうかが成功のカギとなります。

そのため、単に収益性や財務状況だけを見て判断するのではなく、経営陣や従業員のスタンス、業界での評判なども考慮に入れたうえで、多角的な視点から合併相手の選定をしなければなりません。また、相手企業の意向や今後の成長戦略なども、十分に確認しておいた方が良いでしょう。

事前のデューデリジェンス

吸収合併では、相手企業の実態を正確に把握するためのデューデリジェンス(買収監査)が欠かせません。財務・法務・人事・事業内容・知的財産など、幅広い項目を対象に調査を行い、リスクや統合後の課題を明らかにする必要があります。

特に簿外債務や訴訟リスク、税務リスクなどがある場合、合併後に重大な問題に発展する可能性があるため、弁護士などの専門家の協力を得ながら慎重に進めることが重要です。

法務・財務・税務の統合計画

吸収合併の成否は、統合後の運営が円滑に進むかどうかにかかっています。そのため、事前に法務・財務・税務の各領域で、具体的な統合プランを立てておくことが重要です。

会計基準や税制への対応、社内規程や契約関係の整理、システム統合の方法など、やるべきことが非常に多いだけに、統合後の実務負担を軽減するための準備をしておかなければなりません。

適切な情報開示とコミュニケーション

合併は、従業員や取引先、顧客や株主など、さまざまな利害関係者(ステークホルダー)に対して大きな影響を与えます。そのため、吸収合併の目的や方針、今後の経営体制などについて、誠実かつ透明性のある情報開示を行うことが大切です。

また、社内では従業員の不安を和らげるための説明会や個別面談を、社外に対しては丁寧な報告や事前相談を実施し、信頼関係を保ちながら手続きを進めて行かなければなりません。

競争法・独占禁止法との関連

吸収合併により市場シェアが大きく変化する場合、公正取引委員会による企業結合審査が必要になることがあります。特に同業種間での合併や、業界内での影響が大きい場合には、独占禁止法に抵触しないか事前にチェックしておくことが不可欠です。

審査には時間を要する可能性もあるため、専門家と連携しながら、慎重に進めて行くように心がけましょう。

まとめ

吸収合併は、経営資源の集約や組織の再編を通じて、企業の成長や課題解決を図る手段として非常に効果的な手法となります。ただし、実務上の手続きや法的な注意点なども多く、社内のリソースだけで実行するのは難しいケースが多いため、積極的に専門家のアドバイスを活用しながら進めて行くと良いでしょう。

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この記事を書いた人

「一社でも多くの廃業をなくす」をミッションとし、M&A・事業承継の情報をわかりやすく発信。
後悔のない選択をし、一社一社が星のように輝けるようにという思いを込めてお伝えしています。

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