M&Aの「のれん」とは?計算方法・償却期間・減損などをわかりやすく解説!

のれんは、M&Aを実施する際に買収の対象となる企業が持つ価値を適切に理解するうえで必要不可欠な考え方です。

しかし、イメージは理解しているものの、具体的には全くわからないと悩む方も多いのではないでしょうか。

この記事では、M&Aにおけるのれんの基本概念から適切な会計処理まで、わかりやすく解説していきます。ぜひ最後までご覧ください。

目次

M&Aにおける「のれん」とは?

M&Aにおける「のれん」とは、買収企業が支払った対価が、被買収企業の純資産(資産から負債を引いた価値)を超える部分を指します。簡単に言えば、「買収価格と純資産の差額」です。

この差額が生じる理由は、企業価値には目に見える資産だけでなく、以下のような無形の価値も含まれるからです。

主な無形の価値
  • ブランド力や顧客基盤
  • 従業員の技術やノウハウ
  • 市場での信用や評判
  • 将来の収益力

のれんは、貸借対照表上では「無形固定資産」として計上されます。M&A実務において、こののれんの理解は非常に重要です。なぜなら、買収後の財務状況や利益に大きな影響を与えるからです。

特に重要なのは、のれんの金額があまりに大きい場合、将来の減損リスクも高まる点です。M&Aを検討する際は、のれんの発生額とその将来的な影響を必ず考慮しましょう。

のれんの減損とは?

のれんの減損とは、M&A後に計上したのれんの価値が、将来の収益力低下などにより回収不能と判断された場合に行う会計処理です。

減損の兆候には以下のような状況があります。

主な無形の価値
  • 買収した事業の業績が当初の計画を大幅に下回る
  • 市場環境や競争状況の著しい悪化
  • 主要な人材の流出や技術の陳腐化
  • 法規制の変更による事業への悪影響

基本的には、事前に対策を行い避けることが賢明でしょう。ただし、買収した会社の業績の悪化、買収後の経営統合の失敗などの理由から会社の価値が低下してしまうことはあるため、注意しましょう。

のれんの減損時の仕訳方法

のれんの減損が発生した場合、適切な仕訳処理を行う必要があります。減損の会計処理は経営成績に大きな影響を与えるため、正確な対応が求められます。

(借方)減損損失 XX億円 (貸方)のれん XX億円

この仕訳を行うことで、のれんの帳簿価額が減額され、同時に損益計算書上で減損損失が計上されます。減損損失は特別損失として処理されるため、営業利益には影響しませんが、税引前当期純利益を減少させます。

減損処理は一度行うと戻入れができないため、慎重な判断が必要です。特に大型M&Aの場合、減損損失は億単位になることも珍しくなく、企業イメージや株価にも影響を与える可能性があります。

定期的なモニタリングを行い、減損の兆候をいち早く把握することが重要です。

のれんの由来

「のれん」という言葉の由来は、古くからの商習慣に関係しています。江戸時代、商店の前に掛けられていた「暖簾(のれん)」は、その店の信用や評判を象徴するものでした。

長年営業している老舗店には、以下のような無形の価値が蓄積されていました。

主な無形の価値
  • 常連客からの信頼
  • 商品・サービスの品質への評判
  • 熟練した技術やノウハウ

これらは目に見えない資産でしたが、店の価値として認識されていました。現代の会計用語としての「のれん」も、この考え方を引き継いでいます。M&Aで企業を買収する際、単なる資産価値以上の金額を支払うのは、この見えない価値に対する投資なのです。

負ののれんとは?

「負ののれん」とは、M&Aにおいて買収価格が被買収企業の純資産より低い場合に発生する現象です。つまり「買い得」の状態を指します。

通常、このような状況が発生する理由には、以下のようなものがあります。

負ののれんが発生する理由
  • 売り手が急いで売却したい事情がある
  • 被買収企業の業績不振や財務問題
  • 資産価値の過小評価
  • 市場環境の急変

会計処理では、負ののれんは発生した期の利益として一括計上されます。例えば、純資産が1億円の企業を8,000万円で買収した場合、差額の2,000万円は「負ののれん発生益」として買収した企業の損益計算書に計上されます。

ただし、負ののれんが発生するケースは稀です。通常はきちんと資産評価を行い、再度査定することが求められます。また、一時的な利益として計上されるため、将来の収益性には直接寄与しないことを理解しておく必要があります。

M&Aにおけるのれんの計算方法

のれんの計算は、M&Aにおける重要なステップです。基本的な計算式は非常にシンプルで、以下のように表されます。

のれん = 買収対価 – 被買収企業の純資産の時価

また、買取対価、被買収企業の純資産の時価は、以下のように算出します。

<買取対価・被買収企業の純資産の時価の算出方法>

スクロールできます
買収対価買収企業が支払った金額(現金、株式交換、負債引受などの合計)
純資産の時価被買収企業の資産から負債を引いた価値(時価評価後)

重要なポイントは、純資産は帳簿価額ではなく「時価」で評価する点です。例えば、土地や建物は帳簿上の価値より実際の市場価値が高いことが多く、M&A時には適切に再評価する必要があります。

のれんの計算を正確に行うためには、被買収企業の資産・負債を詳細に評価する「デューデリジェンス」が欠かせません。この過程で専門家の評価を受けることで、将来の減損リスクを減らすことができるでしょう。

のれんの計算例

具体的な計算例を通じて、のれんの発生プロセスを見ていきましょう。

たとえば、A社がB社を10億円で買収する場合は、B社の資産・負債情報は以下のようになります。

スクロールできます
項目帳簿価額時価評価額
資産合計8億円9億円
負債合計3億円3億円
純資産5億円6億円

そのうえで、のれんの計算方法は次のようになります。

のれん = 買収対価 – 被買収企業の純資産の時価 のれん = 10億円 – 6億円 = 4億円

この例では、4億円ののれんが発生します。A社の貸借対照表には、B社の資産・負債に加えて、4億円ののれんが計上されることになります。

重要なのは、なぜA社がB社の純資産価値より4億円多く支払ったのかという点です。この「プレミアム」は、B社の将来収益力やシナジー効果に対する期待を反映しています。M&A後、この期待通りの成果が出ないと、のれんの減損リスクが高まります。

M&Aにおけるのれんの会計処理

M&Aには2種類の会計処理方法があります。

M&Aの会計処理方法
  1. 日本会計基準の会計処理
  2. 国際会計基準(IFRS)の会計処理

それぞれの処理方法について、詳しく解説します。

日本会計基準の会計処理

日本会計基準では、のれんは「規則的償却」の対象となります。これは、のれんを一定期間にわたって費用化していく方法です。

日本会計基準におけるのれんの主な特徴は以下の通りです。

日本会計基準におけるのれんの主な特徴
  • 原則として20年以内の期間で定額法により償却
  • 毎期一定額を費用計上(損益計算書の「のれん償却費」)
  • 減損の兆候がある場合は減損テストを実施

例えば、5億円ののれんを10年で償却する場合、毎年5,000万円の償却費が発生します。この償却費は税務上も損金として認められるため、法人税の節税効果があります。

日本基準の特徴は、のれんを将来的に収益を生み出す資産と考え、その便益を受ける期間にわたって費用配分する考え方です。

この方法は保守的とされ、突発的な減損リスクを軽減する効果がありますが、一方で毎期の利益を圧迫するというデメリットも存在します。

国際会計基準(IFRS)の会計処理

国際会計基準(IFRS)では、のれんの会計処理は日本基準と大きく異なります。IFRSでは「非償却・減損テスト」方式を採用しています。

IFRSにおけるのれんの主な特徴は以下の通りです。

IFRSにおけるのれんの主な特徴
  • 規則的な償却は行わない(償却費の計上なし)
  • 毎期または減損の兆候がある場合に減損テストを実施
  • 減損が認められた場合のみ、一括して費用計上

日本会計基準の場合、5億円ののれんを計上した後、毎期の償却は行わず、事業価値が下がった場合にのみ減損処理を行います。

この方法では、M&A直後の利益が日本基準より大きく計上される利点がありますが、将来的に一度に大きな減損損失が発生するリスクもあります。

グローバル企業がIFRSを採用する場合、日本基準と会計処理の違いを十分理解し、M&A戦略に反映させることが重要です。

のれんの償却方法

のれんの償却とは、M&A後に発生したのれんの金額を一定期間にわたって費用化する処理です。日本基準では、この償却が義務付けられています。

償却方法には、主に以下の種類があります。

のれんの償却方法
定額法

毎期同じ金額を償却(最も一般的)

定率法

初期に多く償却し、徐々に減少

生産高比例法

生産量や販売量に応じて償却

多くの企業は管理の簡便性から定額法を採用しています。例えば、10億円ののれんを10年で償却する場合、毎年1億円ずつ費用計上します。

償却方法を選ぶ際は、買収した事業の収益パターンと整合性を持たせることがポイントです。

収益が安定的に発生すると予測される場合は定額法、初期に多くの収益が見込める場合は定率法が合理的かもしれません。適切な償却方法を選択することで、より実態に即した会計処理が可能になります。

のれんの償却期間

のれんの償却期間は、買収した事業から便益を受けると見込まれる期間を合理的に見積もって決定します。日本会計基準では、原則として20年以内とされています。

ただし、20年以内の設定であれば問題ないため、3年、5年といった短期間で減価償却をしても問題ありません。

のれんの仕訳

のれんに関する会計処理を正確に行うためには、適切な仕訳が不可欠です。M&A時の取得からその後の償却・減損まで、主な仕訳パターンを押さえておきましょう。

それぞれ、詳しく解説します。

のれんの仕訳パターン
【M&A時ののれん計上】

(借方)のれん XX億円 (貸方)現金預金 XX億円

※実際には他の資産・負債も同時に計上します

【定期償却時】

(借方)のれん償却費 XX億円 (貸方)のれん XX億円

【減損処理時】

(借方)のれん減損損失 XX億円 (貸方)のれん XX億円

例えば、5億円ののれんを10年で償却する場合、毎年の仕訳は以下の通りです。

借方)のれん償却費 5,000万円/(貸方)のれん 5,000万円

正確な仕訳を行うことで、財務諸表の透明性が高まり、投資家や金融機関に対する信頼性も向上します。特に大型M&Aの場合は、外部の会計専門家の支援を受けることも検討すべきでしょう。

まとめ

M&Aにおけるのれんは、企業価値評価の核心部分を表す重要な会計概念です。本記事で解説したように、のれんは単なる会計上の数字ではなく、買収した企業の将来性や無形の価値を表す指標でもあります。

のれんの適切な管理のためには、以下の点に注意が必要です。

のれんの適切な管理に向けた注意点
  • 買収前の適切な企業価値評価とデューデリジェンス
  • 会計基準(日本基準かIFRSか)に応じた処理方法の理解
  • 償却期間の合理的な設定と一貫した適用
  • 定期的な減損テストと早期の兆候把握

M&A後ののれん管理は、統合プロセスの成否を左右する重要な要素です。過大評価による多額ののれん計上は、将来の減損リスクを高めることになります。

企業買収を検討する際は、のれんの金額とその将来的な影響を十分に考慮し、長期的な視点で意思決定を行うことが重要です。専門家のアドバイスを受けながら、戦略的かつ慎重にM&Aを進めていきましょう。


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この記事を書いた人

「一社でも多くの廃業をなくす」をミッションとし、M&A・事業承継の情報をわかりやすく発信。
後悔のない選択をし、一社一社が星のように輝けるようにという思いを込めてお伝えしています。

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