経営統合とは?合併との違いやメリット・デメリット、成功事例まで徹底解説

企業の成長戦略や業界再編の手段として、多くの企業が取り組んでいるのが「経営統合」です。類似する概念として「合併」がありますが、両者は目的や実施手法に大きな違いがあります。

そこで本記事では、経営統合の定義や合併との違い、メリット・デメリット、代表的な方式、成功事例までをわかりやすく解説します。

目次

経営統合とは?合併との違い

経営統合と合併は、企業同士が一体となるという点では似ています。ですが、実際の手法や法的な位置づけには大きな違いがあります。まずは、両者の定義と具体的な相違点を整理しておきましょう。

経営統合の定義と特徴

経営統合とは、複数の企業がそれぞれの法人格を維持したまま、経営の意思決定や経営戦略を一本化する形で実現される企業再編手法です。目的は主に、経営資源の効率的な活用やシナジー効果の最大化にあります。特に近年では、競争激化や市場環境の変化に対応するため、異なる業種や地域にまたがる企業同士がグループを形成し、一体的に経営する手段として活用されています。

この手法の特徴は、合併とは異なり、関係企業がそれぞれの法人格やブランドを維持しながらも、グループ全体としての意思決定を一本化できる点です。たとえば、統合後は持株会社の設立や株式移転などの方法により、統括機能が集中される体制がとられます。これにより、企業文化や顧客基盤を維持しつつ、効率的なガバナンスと経営戦略の統一が可能となります。

合併との違い

合併は、複数の企業が一つの法人に統合され、いずれか一方の法人格が消滅する法的再編手法です。これに対して経営統合は、各企業が独立した法人格を維持しつつ、経営戦略や意思決定を共通化する点に大きな違いがあります。

たとえば、合併では存続会社以外のブランドや組織文化が失われる可能性が高い一方、経営統合ではブランドや企業文化を残しつつ、効率的な意思決定体制を構築できます。これにより、従業員や顧客への影響を最小限に抑えながら、統一的な経営が実現されるのです。

また、法的な手続きや税務上の扱いにも違いがあります。合併は登記変更など煩雑な手続きが必要になるのに対し、経営統合では持株会社の設立や株式交換などを通じて柔軟な構造が採られることが一般的です。

このように、両者は目的や実行手段、企業文化への影響において明確な違いを持っています。

経営統合のメリット

経営統合には多くのメリットがあります。その中でも特に代表的なのが、以下の3つです。

独立性・自主性の維持

経営統合の大きなメリットの一つは、各企業が法人格を保ちながら連携できるため、独立性や自主性を維持できる点です。これは合併と大きく異なる特徴であり、従業員や取引先に与える心理的・業務的影響を抑える効果があります。特に長年にわたって築かれてきたブランドや企業文化を残したい場合において、経営統合は有効な手段といえるでしょう。

また、意思決定の統一が図られながらも、各事業会社は一定の裁量権を持って運営を続けることができます。これにより、現場のスピード感を損なうことなく、グループ全体としての経営戦略を共有することが可能です。

このように、経営統合では個社の強みを残しつつ、効率的な意思決定体制を構築できるため、急激な変化を嫌う業界や企業文化を重視する業種にとっては、非常に適した手法と言えるでしょう。

リスク分散の実現

経営統合では、複数の企業がグループとして連携しつつ、法人格を保持するため、リスクを分散できるというメリットがあります。これは、特定の企業が一時的な経営不振やトラブルに直面しても、他の企業に直接的な影響を及ぼしにくいという点で、大きな安心材料となります。特に異業種間や地域ごとの企業統合では、この効果が顕著です。

加えて、法人ごとの資本構成や財務戦略を柔軟に運用できるため、資金調達や投資判断がしやすくなります。このように、経営統合は単なる効率化だけでなく、長期的な視点で経営の安定性を確保するためにも有効な手段だといえます。

経営の効率化

経営統合によって得られる3つ目のメリットは、経営の効率化です。複数の企業が戦略を共有し、意思決定を一本化することで、業務の重複やムダを削減できます。たとえば、購買・物流・人事・会計といった間接部門を統合し、システムやプロセスを共通化すれば、大きなコスト削減効果が期待できるでしょう。

さらに、企業間での情報共有やノウハウの融合が進むことで、技術革新や商品開発のスピードも向上します。研究開発部門の共同運営や、生産拠点の最適化など、スケールメリットを活かした施策が可能となるため、全体としての収益性が向上します。

経営統合のデメリット

経営統合には上述のメリットがある一方、いくつかのデメリットもあります。その中でも代表的なものが、以下の2つです。

組織が複雑化する

経営統合における大きな懸念の一つは、組織の複雑化です。複数の法人が連携して経営する体制では、各社の立場や役割が明確でないと、意思決定や情報伝達に時間がかかることがあります。特に中核となる持株会社と事業会社との間で権限分掌が曖昧になると、業務効率が低下しかねません。

また、統合前の組織文化や経営スタイルが異なる場合、方針のすり合わせに時間がかかることもあります。また、意思決定に関わる経路が増えたり、調整のプロセスが複雑になったりすることで、経営スピードが落ちる可能性もあります。

こうした問題を回避するためには、あらかじめガバナンス体制を明確にし、各社の責任範囲を整理した上で経営を行うことが重要です。組織全体としての統制力を保ちつつ、円滑な連携を実現することが大切となるでしょう。

同部門が重複しがちになる

経営統合では、各企業が独立した法人格を維持したままグループを形成するため、同じ機能を持つ部門が複数存在することになります。たとえば、経理部・人事部・総務部など、統合前は各社に必要だった機能が、統合後もそのまま並立するケースが多く見られます。このような重複は、業務の非効率やコストの増加を引き起こす原因になりかねません。

特に統一された戦略やシステムの導入が遅れれば、意思決定のスピードが落ち、情報の整合性にも問題が生じてしまいます。また、似たような役割の人材が複数いれば、役割の曖昧さや人材配置の無駄も発生しやすくなります。

この課題に対処するためには、PMI(Post Merger Integration)の段階で明確な組織再編計画を立て、不要な重複を解消することが不可欠です。業務の棚卸しやシステム統合を計画的に進め、グループ全体の効率性を高めていく取り組みを行わなければなりません。

経営統合の主な方式

経営統合にはいくつかの手法があり、それぞれに特徴や向いているケースがあります。ここでは、代表的な3つの方式の仕組みや活用例を解説していきます。

株式移転方式

株式移転方式とは、既存の複数企業が新たに持株会社を設立し、その会社に自社株式をすべて移転するという方法のことです。株式移転方式を行うと、各企業は新設された持株会社の完全子会社となり、グループとしての一体運営が可能になります。

この方式のメリットは、各企業の法人格やブランドを維持しながら、経営の指揮系統を一本化できることです。また、対等な関係での統合が可能なため、対立や力関係の不均衡が起こりにくいのも特徴です。企業文化や人材をそのまま活かしながら、経営戦略の統一や資源配分の最適化が行えるため、多くの企業にとって取り組みやすい方法と言えます。

ただし、設立する持株会社の運営コストや、グループガバナンスの複雑化などには注意が必要です。そのため、検討時の制度設計や統合後のPMI段階における管理体制の整備が成功のカギとなります。

株式交換方式

株式交換方式とは、一方の企業が他方の企業のすべての株式を取得し、完全子会社化することによって経営統合を行う手法です。法的には買収に近い形ですが、持株会社を設立せずに親子関係を構築できる点が特徴です。

この方式の利点は、持株会社を設立する手間が省けるため、比較的スピーディに統合を実現できる点にあります。また、株式を対価とするため、資金負担を抑えながらM&Aを進められるのもメリットです。

ただし、取得される側の企業は「買収される立場」になるため、関係性に上下が生まれることがあります。そのため、株主や従業員への説明責任や合意形成が欠かせません。

抜け殻方式

抜け殻方式とは、既存の企業が事業を新設会社に承継させたうえで、元の会社を持株会社として存続させる方法です。元の会社が「抜け殻」となり、統括機能だけを担う形態に変化することから、このような呼称が用いられています。

この方式の特徴は、すでに存在する企業をそのまま持株会社に転換できる点にあります。新たに持株会社を設立する必要がないため、手続きが簡素化され、迅速な統合が可能です。

ただし、事業の承継や分割にかかる手続きや税務面での複雑な処理が必要なため、適切なスキームの選択が重要です。また、従業員や取引先への周知や理解を得るためには、丁寧な説明を行わなければなりません。

経営統合の流れとPMIの重要性

経営統合を成功させるためには、事前の計画段階から統合後の運営まで、一貫したプロセス管理が必要です。ここでは、統合の一般的な流れと、その後に続くPMIの重要性について解説します。

経営統合の一般的な流れ

経営統合は、いくつかのステップを踏んで段階的に進行します。まず初期段階では、統合の目的や戦略的意義を明確にしたうえで、対象企業同士で基本合意を結ぶことから始まります。続いて、双方の財務状況・法務・事業内容を詳細に確認するデューデリジェンス(DD)です。

DDが完了した後、正式な契約締結が行われ、株式移転や株式交換といった統合手法に基づき実行段階へと移ります。この過程では、必要に応じて株主総会や公的機関への届け出などの法的手続きも進められます。統合手続きが完了した時点で、持株会社の設立や組織再編が行われ、名実ともに新たな経営体制がスタートです。

ただし、統合が形式的に完了しただけでは、まだ経営統合が成功したとは言えません。その後の運営や従業員の定着、業務の連携など、統合後のマネジメント(PMI)こそが真の成果を左右します。そのため、事前準備から統合後までを一貫した体制で行うことが重要です。

PMIの重要性と成功の鍵

PMI(Post Merger Integration)とは、経営統合が形式的に完了した後の、組織・業務・文化の実質的な統合です。この段階の成功が、経営統合全体の成果を左右するといっても過言ではありません。形式的な統合に比べ、実務レベルでの融合は難易度が高いため、準備不足のまま進めると、社員の混乱や業務停滞を招きかねません。

PMIで重視されるのは、従業員への丁寧な説明と意識統一です。企業文化が異なる場合は、価値観の調整に時間がかかるため、早期にリーダー層を中心とした連携体制を構築しなければなりません。

次に重要なのが、業務やシステムの統合です。ITインフラの共通化や業務プロセスの整備によって、経営資源の最適配分が可能になります。

また、PMIには経営層だけでなく、現場の協力が不可欠です。トップダウンとボトムアップを両立させることで、実効性のある統合が実現できます。

経営統合の成功事例

最後に、経営統合の成功事例を以下に2つ紹介します。

日野自動車と三菱ふそう

2023年5月、日野自動車と三菱ふそうトラック・バスは、経営統合に向けた基本合意を発表しました。この経営統合は、トラック・バス業界の競争激化やEV・自動運転といった技術革新への対応を目的としています。

統合の形式は株式移転方式で、トヨタ自動車とダイムラー・トラックが新設持株会社の株主となる形です。両社のブランドや販売網はそれぞれ維持しつつ、商品開発や調達、生産体制を統一し、グローバル市場での競争力を高める狙いがあります。

このように、独立性を保ちながらも経営の中枢を一本化する手法は、経営統合の柔軟性を活かした典型例と言えるでしょう。技術革新の波に対応し、スケールメリットと効率性を追求する統合戦略として注目されています。

三重銀行と第三銀行

地域金融機関である三重銀行と第三銀行は、2018年4月に経営統合を実施し、「三十三フィナンシャルグループ」を設立しました。両行はそれぞれの銀行業務を継続しながら、持株会社のもとで経営戦略の統一と地域密着型の金融サービス強化を図っています。

統合の目的は、地域経済の縮小や低金利の長期化といった外部環境の変化に対応し、経営基盤を強化することにありました。統合によって営業エリアの重複が解消され、資金調達力や与信力の向上につながりました。また、共同のIT投資やシステム統一により、効率化とコスト削減も実現されています。

まとめ

経営統合は、複数の企業が法人格を維持したまま経営戦略を統一する柔軟な再編手法です。合併と異なり、独立性や企業文化を尊重しつつも、グループ全体での意思決定や効率化を実現できるのが大きな特徴です。

ただし、導入する際には、スキームの選定やPMIの重要性を十分に理解したうえで、計画的な統合を行わなければなりません。自社の強みを活かしながら最適な形で経営統合を進めることが、持続可能な成長への第一歩となるでしょう。

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この記事を書いた人

「一社でも多くの廃業をなくす」をミッションとし、M&A・事業承継の情報をわかりやすく発信。
後悔のない選択をし、一社一社が星のように輝けるようにという思いを込めてお伝えしています。

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