M&A支援機関登録制度は、中小企業が信頼できるM&A支援を受けられるように、中小企業庁が設けた制度です。
登録された支援機関は、中小M&Aガイドラインを遵守し、透明性の高いサービスを提供することをなどが求められますが、補助金の対象となるなどのメリットもあります。
本記事では、制度の概要や登録のメリット、申請フロー、注意点について詳しく解説します。
M&A支援機関登録制度の概要
M&A支援機関登録制度とは、適切なM&Aを推進するために一定の基準を満たす支援機関を登録し、その質を公的に担保する制度のことです。はじめに、どのような事業者が対象となるのか、また登録の仕組みがどのように運用されているのかを詳しく見ていきましょう。
M&A支援機関とは?
M&A支援機関とは、M&Aの仲介やフィナンシャル・アドバイザリー業務を提供し、企業の事業承継や買収・売却を支援する事業者のことです。本制度では、こうしたM&A支援機関のうち、一定の基準を満たした機関のみが登録される仕組みとなっています。
この支援機関の登録対象となるのは、M&A仲介会社、フィナンシャル・アドバイザー(FA)、会計事務所、コンサルティング会社、金融機関、法律事務所などです。M&A仲介業務を行う企業には、取引の透明性や適正な手数料の設定が求められており、登録するためには報酬体系を自社のホームページなどに明確に示さなければなりません。
また、M&A支援機関には「中小M&Aガイドライン」の遵守が義務付けられており、顧客に対して適切な情報提供を行い、公正な取引を実現することが求められています。
登録制度の仕組み
M&A支援機関登録制度は、公募を通じて適切な機関を選定し、信頼性の高いM&A市場の形成を目的としています。登録を希望する事業者は、公募要領を確認し、必要な書類を準備した上で申請を行います。
具体的には、登録を希望する機関は「M&A支援機関登録事務局」に申請し、登録のための審査を受けなければなりません。審査では以下の項目がチェックされます。
- 中小M&Aガイドラインの遵守状況
- 手数料の適正性
- 取引の透明性
- 過去の実績
審査を通過すると、中小企業庁の公式ウェブサイトに登録機関として掲載されるため、企業側も安心して選択できるようになります。
ただし、登録後も、支援機関は適切なサービスを継続的に提供しなければなりません。また、定期的に実績などを報告する義務も課されます。
万が一不適切な対応などが発覚した場合、登録が取り消される可能性もあるため、事業者はコンプライアンスを遵守し、適切な支援を行わなければなりません。
M&A支援機関登録のメリット
M&A支援機関登録制度には、登録事業者と依頼する企業側の双方に、大きなメリットがあります。ここでは、それぞれのメリットと市場全体への影響について詳しく解説します。
登録事業者側のメリット
登録事業者側にとって最大のメリットは、依頼する企業側からの信頼性が大幅に向上することです。M&A支援機関として登録すれば、提供するサービスの質が中小企業庁によって担保されるため、依頼する企業側からの信用が得やすくなります。
また、M&A支援機関として認定されると中小企業庁の公式ウェブサイトに登録されるため、企業からの相談や依頼を受ける機会が増えるというのも大きなメリットです。
さらに、登録すると事業承継・引継ぎ補助金の対象機関となるため、補助金を活用したM&A支援が可能になり、コスト面での競争力も強化されます。
こうしたことから、登録事業者は市場での競争力を高め、より多くの企業に対してサービスを提供しやすくなります。
企業・事業者側のメリット
企業や事業者にとって、登録支援機関を利用することの最大のメリットは、信頼できるM&Aの専門家を選べることです。M&Aは多くの法的・財務的な要素が絡むため、適切なアドバイスを受けられるかどうかが成功のカギとなります。
登録されたM&A支援機関は中小M&Aガイドラインを遵守しているため、不適切な契約や不透明な手数料の請求などのリスクを抑えることができます。
また、補助金の活用が可能になる点も大きな利点です。事業承継・引継ぎ補助金を利用することで、M&Aにかかる費用を抑えつつ、質の高いサポートを受けることができます。
さらに、登録支援機関は企業の経営課題に応じた適切なアドバイスも提供できるため、単なるM&A仲介にとどまらず、成長戦略の一環としてM&Aを活用できる点も企業・事業者側にとっては大きな魅力です。
市場全体への影響
M&A支援機関登録制度が導入されると、市場全体の透明性が向上することから、M&Aの活性化が期待されます。これまで、中小企業のM&A市場では、仲介業者による手数料の不透明さや、不適切なマッチングが問題視されていました。しかし、本制度の浸透により、公正な取引を行う登録支援機関が明確になるため、企業は信頼できる仲介業者を選びやすくなります。
また、登録支援機関は適正な手数料体系を公開しているため、業界全体の価格設定が適正化される効果も期待できます。
その結果、企業側は過剰な費用を負担することなく安心してM&Aを進められる環境が整い、また支援機関は実績の報告やガイドラインの遵守が進むため、業界全体の質の向上も期待できるでしょう。
加えて、M&Aの活性化は、経営者の高齢化が進む中小企業の事業承継問題の解決にも寄与します。本制度を活用することで、スムーズな世代交代が実現し、経済全体の活性化にもつながると考えられます。
登録要件と申請フロー
M&A支援機関登録制度に登録するためには、一定の基準を満たす必要があります。ここでは、登録要件の詳細と申請の流れについて解説します。
登録要件
M&A支援機関として登録するためには、中小M&Aガイドラインの遵守を宣言することが必須条件となります。登録希望者は、自社のホームページなどでガイドラインに従うことを明確にし、透明性のあるサービスを提供することを約束しなければなりません。
また、料金体系の明示も重要な要件です。M&Aの仲介手数料やアドバイザリー費用は企業にとって大きな負担となるため、事前に報酬の計算方法や金額を明確に示さなければなりません。
さらに、登録申請者は、反社会的勢力との関係を一切持たないことを証明することが必要です。それだけでなく、過去に行政処分や契約停止措置を受けていないことも審査対象となります。
M&A支援機関登録制度は、こうした厳格なレギュレーションを課すことにより、適正な事業運営を行う機関のみが登録できる仕組みとなっています。
申請フロー
M&A支援機関登録制度の申請は、以下の手順で進められます。
中小企業庁の公式ウェブサイトで最新の公募情報を確認し、登録要件や提出書類の内容を把握します。
必要な書類を準備し、M&A支援機関登録事務局に申請します。申請には、会社概要、サービス内容、料金表、ガイドライン遵守の宣言書などが含まれます。
提出された申請書類をもとに、登録要件を満たしているかが審査されます。この際、ガイドラインの遵守状況や手数料体系の透明性、過去の業務実績などが確認されます。
審査を通過した機関は、中小企業庁の公式サイトで登録機関として公表され、企業が検索できるようになります。 ただし、登録後も定期的な報告義務を果たし、適切な支援を継続しなければなりません。。
登録後の義務
M&A支援機関として登録された後も、適正な業務を継続するためにいくつかの義務が課されます。ここでは、ガイドライン遵守の継続、成約実績の報告、依頼企業への説明義務について解説します。
ガイドライン遵守の継続
M&A支援機関は、登録後も中小M&Aガイドラインの遵守を継続する義務があります。このガイドラインでは、M&A取引における透明性や公正性を確保するための基準が定められており、登録機関はこれを厳守しなければなりません。
特に、不当な手数料の請求や不適切なアドバイスを防ぐため、契約前に十分な説明を行い、報酬体系を明示しなければなりません。また、顧客とのトラブルを防ぐために、取引内容やリスクについて十分な情報提供を行い、合意のもとで契約を締結するように定められています。
また、ガイドラインの遵守状況は定期的にチェックされ、違反が発覚した場合は、登録取り消しや業務停止の措置が取られます。したがって、登録機関は日々の業務の中でコンプライアンスを意識しながら、適切なM&A支援を提供しなければなりません。
M&A成約実績の報告
M&A支援機関は、登録後も定期的に成約実績を報告する義務があります。これは、登録機関が適切にM&A支援を行っているかどうかを確認し、市場の透明性を確保するためです。
報告内容には、成約件数、取引の規模、業種、手数料の算定基準などが含まれており、これらの情報を定期的にM&A支援機関登録事務局に提出しなければなりません。企業側が支援機関を選ぶ際、これらのデータが参考情報となるため、正確かつ詳細な報告が義務として課されます。
また、一定期間内に十分な実績がない場合は、登録の更新が認められないケースもあります。そのため、支援機関は継続的にM&A案件を獲得し、質の高いサービスを提供しなければなりません。
依頼企業への説明義務
M&A支援機関には、依頼企業に対する適切な説明を行う義務があります。M&Aは企業の将来を左右する重要な取引であるため、関係者が十分な情報をもとに判断できるようにすることが不可欠です。
具体的には、M&Aの手順やリスク、成功事例、費用の詳細などを明確に説明し、企業が納得した上で契約を結べるようにしなければなりません。また、M&Aのスキームに応じた法的・財務的なリスクについても適切なアドバイスを提供し、企業側が誤った認識を持たないよう配慮することも必要です。
さらに、契約時には手数料や報酬の計算方法を明示し、後から追加費用が発生しないようにすることも重要です。不明確な契約内容や過剰な手数料の請求は、信頼を損なう原因となるため、十分な説明を行った上で合意を得るようにしなければなりません。
登録の抹消や取り消しについて
M&A支援機関登録制度では、登録後も適切な業務が求められます。ここでは、登録が抹消・取り消しとなる可能性のあるケースについて解説します。
遵守違反による登録取り消し
登録機関は、中小M&Aガイドラインを遵守することが義務付けられています。違反が発覚した場合は、登録の取り消しや業務停止措置が取られるため、適正な業務運営を行うことが重要です。
特に、手数料の不正請求や不適切なM&A仲介、企業の意向を無視した契約交渉は、重大な違反とみなされるため、十分に注意しなければなりません。また、反社会的勢力との関係が判明した場合や、コンプライアンス違反が確認された場合も、登録が抹消されることになります。
登録が取り消されると、中小企業庁の公式サイトから削除され、新規案件の獲得が難しくなるため、日頃から法令を遵守し、適切な対応を徹底することが大切です。
登録更新時の審査落ち
M&A支援機関の登録は、永久に有効ではなく、定期的な更新審査が行われます。この審査では、登録要件が維持されているかを厳しく確認し、基準を満たさない場合は更新が認められません。したがって、継続的に適正な業務を行わなければなりません。
成約実績の報告が不十分であったり、虚偽の情報を提出したりすると、更新が拒否される可能性があります。また、手数料の開示が不適切であったり、顧客からのクレームが多発していたりすると、審査に通らないこともあります。
さらに、業務運営において中小企業庁の求めるコンプライアンス基準を満たしていないと判断された場合も、更新が認められません。
不適切な情報提供による影響
M&A支援機関が依頼企業に対し、不適切な情報提供を行うと、登録の抹消や取り消しにつながる可能性があります。例えば、企業価値を過大または過小に評価すると、適正な取引が妨げられ、依頼企業が損害を被るおそれがあります。
また、M&Aのメリットばかりを強調し、リスクやデメリットを十分に説明しなかった場合も同様です。不利益を正しく伝えなければ、企業側が誤った判断を下し、経営に悪影響を及ぼす可能性が高まってしまいます。
このようなケースでは、M&A支援機関登録制度の基準に違反すると判断されるため、登録が取り消されることがあります。
まとめ
M&A支援機関登録制度は、中小企業が安心してM&Aを進められるように設けられた制度です。登録機関には、中小M&Aガイドラインの遵守や適正な手数料の提示が求められ、透明性のある取引の実現が期待されています。
また、登録後もガイドラインの遵守や成約実績の報告が義務付けられており、不適切な業務が発覚した場合は登録が抹消されることもあります。
登録機関の質の高い支援が広まることで、中小企業の事業承継が円滑に進み、地域経済の持続的な発展が促進されるでしょう。
