IM(インフォメーション・メモランダム)とは?M&Aにおける役割・記載内容・作成時の注意点を解説

M&Aのプロセスを円滑に進めていくためには、売り手企業の詳細な情報を、買い手に正確かつ効果的に開示しなければなりません。そのときに重要な役割を担うのが、IM(インフォメーション・メモランダム)です。

もしこのIMに誤りや情報の偏りがあれば、買い手が不安を抱いて意思決定をためらい、交渉が中断しかねません。そこで、この記事では、IMの基本的な意義から、作成方法や注意点までをじっくりと解説します。

目次

IM(インフォメーション・メモランダム)とは

はじめに、IM(インフォメーション・メモランダム)とはどのようなもので、その役割や、ノンネームシートなどとはどのように違うのかについて解説します。

IMの定義と役割

IM(インフォメーション・メモランダム)とは、M&Aの検討段階において、売り手企業に関する重要な情報をまとめた資料のことです。企業概要や財務状況、事業内容、今後の展望など、買い手が判断するために必要な情報が一通り網羅されています。

特に、売り手の実名が開示された後、初めて手渡される資料であるため、第一印象を大きく左右する場面でも用いられます。つまり、単なる企業紹介ではなく、M&Aの進展を左右する戦略的な役割を担っている点が、IMの特徴だと言えるでしょう。

また、IMはしばしば「企業の履歴書」とも表現されますが、単に過去を記載するだけでなく、将来性や戦略性を含めた“未来志向型の提案書”でもあります。買い手企業にとっては、IMの段階で自社の戦略に合致するかどうかを見極める重要な判断材料となるため、初期デューデリジェンスの入り口としても機能します。

ですから、IMの品質がその後の検討スピードや合意形成に大きく影響を与えるといっても過言ではありません。

ノンネームシート・NDAとの違い

M&Aの初期では、売り手企業の名前を伏せたノンネームシートが先に提示されます。これは、事業内容や売上規模、譲渡希望条件といった概要を簡潔に記載した書類のことです。

ノンネームシートに買い手が関心を示したら、秘密保持契約(NDA)を締結し、正式にIMを提示します。つまり、ノンネームシートはきっかけにすぎず、IMこそが本格的な検討を支える中核資料と位置づけられているわけです。

それ以外にも、ノンネームシートとIMの大きな違いは、記載される情報量と信頼性のレベルです。ノンネームは匿名性を重視し、情報もごく限られた内容にとどまりますが、IMでは企業名・事業実態・将来計画などが開示されるため、機密性が極めて高く、開示の責任も伴います。こうした点が、両者は大きく異なります。

また、IMを開示する際には、情報漏洩リスクを回避しなければなりません。そこで締結されるのがNDAです。したがって、NDAはIMの開示には欠かせない、情報の秘匿を担保するための重要な契約となります。

IMを作成する目的

M&AにおけるIMの目的は多岐にわたります。この章では、買い手・売り手それぞれの視点から、どのような目的でIMが活用されるのかを解説します。

買い手側の意思決定を支援する

IMの最大の目的は、買い手が「この会社を買うべきかどうか」を適切に判断できるように、必要な情報を提供することです。企業全体の姿を、できるだけ客観的かつ正確に示すことで、買い手は事業の将来性やリスクを総合的に評価できるようになります。

特に、将来的なシナジーや経営統合後の見通しを描く上で、IMは重要な情報源となります。情報が不足していたり、内容が不明確であったりすると、買い手側は慎重になり、交渉の進行が難しくなる恐れもあるでしょう。

こうした理由から、IMは意思決定の基盤として重視されています。

売り手企業の魅力を伝える資料として

IMは、企業情報をまとめるだけでなく、売り手の魅力を伝える役割も担っています。たとえば、独自の強みや業界内での立ち位置、今後の成長性といった要素を丁寧に説明することで、買い手に好印象を与えることが可能です。

特に中小企業では、これまで外部に示してこなかったような技術力や社風、経営者の思いなども、M&Aの際の重要な判断材料となり得ます。そうした魅力を言語化して伝えることができれば、買い手からの評価も高まり、交渉の主導権を握ることにもつなげられるでしょう。

M&Aプロセスの中での役割

IMは、M&Aプロセスの初期段階から基本合意に至るまでの間、中心的な役割を果たします。買い手企業はIMを読み込んだうえで、質疑応答や条件交渉を進めていくため、資料の完成度はその後の展開に大きく関わってくるのです。

そのため、しっかりと構成されたIMがあれば、買い手側も前向きな姿勢を持ちやすく、スムーズな成約につながりやすくなります。一方で、内容が不十分であれば、不安を招き、追加の確認や資料要求が増えてしまい、交渉が長期化する原因にもなりかねません。

IMに記載される主な項目

IMに盛り込まれるべき情報は多岐にわたりますが、ここでは代表的な5つのカテゴリーに分けて、解説していきます。

エグゼクティブサマリー(企業概要)

IMの冒頭に位置するエグゼクティブサマリーは、買い手に企業の全体像を瞬時に伝える重要なパートです。企業の名称や所在地といった基本的な情報に加え、主力事業の内容、市場でのポジション、今後の成長戦略などを簡潔にまとめます。

この部分が読み手に好印象を与えるかどうかが、IM全体の印象を大きく左右します。そのため、数字や実績などの客観的なデータを交えつつ、できるだけわかりやすく端的にまとめなければなりません。

企業概要は、企業の魅力を凝縮した「顔」としての役割を持つため、視覚的にも整ったレイアウトや図表の活用も効果的です。

会社情報・沿革

会社情報では、企業の設立年月、資本金、代表者、従業員数などの基本情報を正確に記載します。さらに、沿革では創業から現在に至るまでの主な出来事や成長の軌跡を時系列で示すことで、経営の一貫性や実績をアピールすることが可能です。

特に、M&Aを通じて承継されるべき歴史的背景や節目となる出来事については、丁寧に記述することが重要です。また、グループ会社の有無や関係会社の構成も記載することで、事業体制の全容が伝わりやすくなります。

事業内容と商品・サービス

事業内容では、売上の柱となる商品やサービス、ビジネスモデルの特徴を説明します。主要な収益源が何であるのか、どのような顧客層をターゲットとしているのかを明らかにし、買い手が事業の全体像を掴めるようにします。

また、サービスや製品の特徴だけでなく、競合との差別化ポイントや収益構造の強みなども併せて記載することで、企業価値を具体的に伝えることが可能です。さらに、製造業であれば生産拠点や製造ラインの概要、IT系であれば開発体制やライセンス状況についても補足すると説得力が増します。

市場動向・競合状況

企業が属する業界の市場規模や成長性、直近の動向を示すことで、事業の将来性を裏付ける材料となります。たとえば、近年の業界トレンドや法改正の影響、新技術の普及状況などをできるだけ詳細に書き記します。

また、主要な競合企業の特徴やシェア、比較における自社のポジションを分析することで、強みや課題をより明確にすることが可能です。それ以外にも、客観的な市場調査データや第三者機関のレポートを引用しつつ、読み手が戦略的に判断できる情報を整理しておくと、IMの信頼性が高まります。

財務情報(過去・現状・将来予測)

財務情報は、企業の健全性や将来の収益性を判断するうえで欠かせません。通常、過去3〜5年分の財務諸表(損益計算書、貸借対照表など)を掲載し、売上高や営業利益、純資産の推移を明示します。

加えて、直近の月次データや着地見込みを補足することで、現在の経営状況をより具体的に把握できます。さらに、将来の事業計画に基づいた財務予測も提示し、見通しの根拠を併記すれば、買い手の意思決定を後押しすることも期待できるでしょう。

株主構成と譲渡理由

IMでは、企業の株主構成や株式の保有状況についても、明確に記載することが必要です。買い手は、誰が企業の支配権を握っているのか、株式に特殊な条件が付されていないかなどを重視しているため、間違いのないように記載しなければなりません。

また、譲渡理由は、交渉の信頼性を左右する重要な情報です。たとえば、後継者不在による事業承継なのか、新規事業への集中を目的としたものかによって、買い手側の受け止め方も異なります。

理由が明確で納得感のあるものであれば、安心材料となり、スムーズな合意形成にもつながります。

IMの作成方法と流れ

次に、IMをどのように準備し、どんな手順で完成させるのかについて、実務的な視点から解説します。

情報収集と整理

IMの作成は、まず情報収集から始まります。企業の財務データ、組織体制、商品・サービスの内容、事業計画など、多岐にわたる情報を集める必要があります。

特に注意したいのは、情報の正確性と一貫性です。誤った情報や古いデータが含まれていると、買い手の信頼を損ねる原因となりかねません。また、情報の出所を明確にし、社内の関係部署との連携を密にすることで、漏れや重複を防ぐことが可能になります。

構成とレイアウト

集めた情報は、単に羅列するのではなく、読みやすく整理された構成にまとめなければなりません。IMの基本構成は、エグゼクティブサマリーから始まり、会社情報、事業内容、市場動向、財務状況、成長戦略と続くのが一般的です。

それぞれの章が論理的につながっているか、必要な情報が過不足なく盛り込まれているかを確認する必要があります。また、表やグラフ、図解を効果的に活用することで、視覚的な理解を助け、情報の説得力を高めることができます。

文章量が多くなりがちなため、見出しや改行などにも配慮し、読み手の負担を軽減するように工夫すると良いでしょう。

専門家の関与(アドバイザー、会計士、弁護士)

IMの作成には、専門家の関与が不可欠です。特に財務情報の整合性を確保するには、公認会計士や税理士などの専門家によるチェックが必要です。

また、契約条件や法的リスクに関しては、弁護士の意見を取り入れることで、後々のトラブルを回避しやすくなります。さらに、M&Aアドバイザーの視点を取り入れることで、買い手の関心に合った情報の見せ方や表現方法を工夫することができるでしょう。

IM作成・確認時の注意点

IMは重要な資料であるだけに、作成や確認の段階で注意すべき点も少なくありません。そこで最後に、売り手と買い手の双方が注意すべきポイントについて、それぞれ解説します。

売り手側の注意点

IMを作成する売り手側は、企業の魅力を適切に伝えるため、客観性と正確性に配慮しなければなりません。アピールポイントが不明瞭だったり、誇張や虚偽の情報が含まれていたりすると、買い手側からの信頼を損なう恐れがあります。

また、専門的な用語を多用したり、読みづらい構成になったりしている場合も、相手の理解を妨げてしまいます。

さらに、最新のデータに基づいて記載することも重要です。IMは一度作成したら終わりではなく、交渉の進展に応じて随時アップデートされるべき資料であるため、常に情報の鮮度を保つように心掛けなければなりません。

買い手側の注意点

IMを受け取った買い手側は、その内容を鵜呑みにせず、記載された情報の裏付けを意識して読み解くことが大切です。売り手側の主観が含まれている可能性もあるため、必要に応じて専門家による検証や、追加の質疑応答を行う姿勢が求められます。

また、IMには企業の機密情報が多数含まれているため、秘密保持契約(NDA)に基づいて厳重に取り扱う必要があります。情報管理の体制が不十分であれば、信頼関係の破綻につながりかねません。

さらに、IMを受け取った後は、社内の関係者で共有し、どのような観点から深掘りすべきかを整理する工程が重要です。たとえば、財務面では営業キャッシュフローやEBITDAの推移に注目し、成長の裏付けを確認する必要があります。

また、売上の集中度や、主要取引先との契約条件といった点も早期にチェックしておくことで、後のデューデリジェンスを効率的に進めることが可能になります。買い手としては、こうした初期の分析段階で得た疑問点をもとに、効果的な質疑応答を展開し、より深い理解へとつなげる工夫をすることが大切です。

まとめ

IM(インフォメーション・メモランダム)は、M&Aの成否に大きく影響を与える重要な資料です。買い手にとっては意思決定の材料となり、売り手にとっては自社の魅力を伝える手段となります。

作成にあたっては正確な情報の整理とわかりやすい構成、専門家のチェックが欠かせません。また、作成後も情報の更新や機密管理といった配慮が必要です。

信頼性の高いIMを作成することで、円滑な交渉と納得のいくM&Aにつながっていくでしょう。

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この記事を書いた人

「一社でも多くの廃業をなくす」をミッションとし、M&A・事業承継の情報をわかりやすく発信。
後悔のない選択をし、一社一社が星のように輝けるようにという思いを込めてお伝えしています。

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