株式併合とは?仕組み・目的・手続きの流れをわかりやすく解説

株式併合とは、発行済株式数を減らすために、既存の複数株式を1株にまとめる手続きです。株価水準の調整や経営の効率化、少数株主の排除といった目的で活用されます。

本記事では、株式併合の基本的な仕組み、目的、手続きの流れ、株主への影響、具体事例までをわかりやすく解説します。

目次

株式併合とは?意味と基本の仕組み

株式併合とは、複数の株式を一つにまとめる法的手続きであり、会社法第180条に規定されています。たとえば「10株を1株に併合する」場合、株主の保有株式数は10分の1になりますが、株式の価値自体は変わらないため、理論上は株価が10倍になります。

この手続きは株主総会の特別決議(総株主の議決権の3分の2以上の賛成)によって決定され、効力発生日に一斉に株式数が変更されます。単元株制度を採用している企業では、併合と同時に単元株数を調整することで、最低投資金額(投資単位)を適切に保つことも可能です。

なお、株式併合は企業価値自体に直接影響を与えるものではなく、形式的には株主の権利や持分比率に変更を及ぼさない点が特徴です。

株式併合を行う目的とは?

株式併合は単に株式数を減らすだけの形式的手続きではなく、企業が戦略的な意図を持って実施する資本政策の一つです。

実際に、低迷した株価の引き上げや株主構成の最適化、企業再編の一環としての活用など、様々な経営課題への対応策として選択されます。

市場環境や企業の状況に応じて併合比率や実施タイミングを検討することが重要であり、株主や投資家にとっても重要な意思決定事項です。

ここからは、株式併合が持つ3つの主要な目的と、それぞれのメリットについて詳しく解説していきます。

株価水準の適正化と投資家への印象改善

株式併合の主要な目的の一つが、低位株価の適正化です。日本の証券市場では、株価があまりに低い水準にある場合、投資家からの信頼性を失いやすい傾向にあります。

たとえば1株あたり50円や100円といった極端な低価格帯の株式は、「財務状況が悪化している」「将来性に問題がある」といった否定的な印象を与えかねません。こうした銘柄を株式併合によって500円や1,000円程度に引き上げることで、市場での評価は大きく改善される可能性があります。

特に機関投資家の中には、一定水準以上の株価の銘柄にしか投資しないという運用方針を持つところも少なくありません。株式併合による株価水準の引き上げは、こうした投資家層の新規参入を促し、株式の流動性向上や株価の安定化につながる効果も期待できます。

また、東京証券取引所をはじめとする取引所では、株価が一定水準を下回ると監理銘柄や整理銘柄に指定されるリスクもありますが、株式併合はこうした事態を回避する有効な対策だともいえます。

管理コストの削減と業務効率化

株式併合によって発行済株式総数が減少すると、株主構成がスリム化され、企業の管理負担が大幅に軽減されます。

株主総会関連書類の作成・発送コスト、議決権行使の集計作業、配当金支払いの事務処理など、株主数に比例して増加する業務を効率化できる点は、企業経営において大きなメリットです。

特に零細株主(ごく少数の株式しか保有していない株主)が多い企業では、併合に伴って発生する端数株処理によって、こうした株主が整理される効果もあります。株主総会の運営が簡素化されると同時に、重要議案の可決確率も高まるため、経営の機動性向上にも寄与するでしょう。

また、株式併合と単元株数の変更を組み合わせることで、株式の流動性を維持しながら管理コストを最適化することも可能です。たとえば、10株を1株に併合すると同時に単元株数を10分の1に変更すれば、最低投資金額(投資単位)を変えずに株主数を調整できます。

これらの効率化によって捻出されたリソースを本業や成長投資に振り向けることができるため、中長期的な企業価値向上という観点からも、株式併合は有効な施策と考えられています。

スクイーズアウトを目的とした併合

株式併合は、少数株主を会社から退出させる「スクイーズアウト(squeeze-out)」手法としても活用されます。

特に「100株を1株に併合」といった高い併合比率を設定することで、多くの株主に端数株(1株未満の株式)が生じます。会社はこの端数株を法令に基づいて買い取ることにより、実質的に株主の数を減らすことができるのです。

この手法は主に、上場企業の非公開化(MBO)や親会社による完全子会社化の過程で用いられます。少数株主が存在しなくなることで、株主総会の開催義務がなくなり、情報開示コストが削減されるほか、親子会社間の取引に関する利益相反の問題も解消されるため、経営の自由度と意思決定の迅速性が大幅に向上します。

なお、2015年の会社法改正により、特別支配株主による株式等売渡請求制度(セル・アウト制度※)が新設されたことで、現在ではスクイーズアウトの手法は多様化しています。

ただし、スクイーズアウトを実施する際には少数株主の保護も重要な課題です。裁判例においても、不当に低い対価でのスクイーズアウトに対しては差止めが認められるケースもあり、株主平等の原則を踏まえた公正な手続きの実施が不可欠といえるでしょう。

セル・アウト制度:総株主の議決権の90%以上を保有する特別支配株主が、残りの少数株主の株式を強制的に取得できる制度です。端数株処理と異なり、より明確な手続きで少数株主の排除が可能になりました。

株式併合の流れ・手続き

株式併合を実施する際には、法令に基づいた適切な手続きが必要です。株主総会の特別決議から始まり、実務的な準備を経て効力発生に至るまで、一連の流れを把握しておくことが重要です。

ここでは、併合実施までの基本的なステップと、企業側が準備すべき事項について解説します。また、株主保護の観点から定められている買取請求権や端数株処理についても触れていきます。

手続きの概要とスケジュール

株式併合の実施には通常、3〜4ヶ月程度の準備期間が必要です。一般的な手続きの流れは以下の通りです。

株式併合の手続きの流れ
取締役会決議

まず取締役会で株式併合の方針を決定し、株主総会の議案として上程します。

株主総会での承認

株主総会では特別決議(会社法第309条第2項第4号)によって承認を得る必要があります。この特別決議では、併合比率や効力発生日などを定めます(会社法第180条第2項)

各種通知・公告

承認後は金融商品取引所への届出や公告、株主への通知を行います。端数株が生じる場合は、効力発生日の20日前までに株主や登録株式質権者に通知する必要があります(会社法第182条の4第3項)。

市場対応

上場企業の場合、効力発生日の約2週間前に売買単位の変更、1週間前には株価の調整(理論上は併合比率に応じた倍率)が行われるのが一般的です。

効力発生

上記のプロセスを経て、定められた効力発生日に株式併合が実行されます。

この時点で株主の保有株式数が併合比率に応じて減少し、理論上の株価も調整されることになります。

必要な手続きと提出書類

株式併合を実施する際には、法令に基づいた書類作成と提出が求められます。主な手続きは以下の通りです。

株式併合に必要な書類作成と手続き
  • 取締役会議事録の作成
  • 株主総会招集通知・参考書類の作成
  • 株主総会議事録の作成
  • 株式併合に関する金融商品取引所への適時開示資料の作成
  • 会社法上の各種公告

さらに、商業登記規則に基づく変更登記申請書や株主名簿管理人への指示書も必要となります。これらの書類作成には法務・財務・IR部門の連携が不可欠であり、外部専門家のサポートを受けることも一般的です。

反対株主による株式買取請求とその対応

株式併合に反対する株主を保護するため、会社法では「株式買取請求権」が規定されています。

議決権を行使できる株主は、株主総会の招集通知到着後、総会で反対した上で効力発生日の20日前から前日までに請求できます。一方、議決権を行使できない株主(会社法第116条第2項)は、株主総会の決議後でも請求可能です。

会社側は請求を受けた後、効力発生日から30日以内に協議して価格を決定し、買取りを実施します。価格について合意できない場合は、協議期間満了日(効力発生日から30日)後30日以内に裁判所へ価格決定の申立てを行う必要があります(会社法第182条の5第2項)。

このため企業側は、買取請求に備えた資金計画や価格算定の準備も必要となります。

端数株(端株)の処理方法

株式併合を行うと、併合比率によっては端数株(1株に満たない株式の端数)が生じます。

たとえば5株を所有している株主が、10株を1株に併合する場合、0.5株という端数が発生します。会社法第235条では、このような端数株式は会社が一括して処分し、その代金を端数が生じた株主に対して交付すると定められています。想定される処理方法は、①会社自らが端数株式に相当する金銭を株主に交付する方法と、②端数株式を市場で売却し、その代金を株主に交付する方法です。

端数株の処理期限について会社法に明確な規定はありませんが、実務上は速やかに処理することが必要です。会社法第235条に基づき、効力発生日から遅滞なく代金の計算・交付を行わなければなりません。

株式併合の影響:投資家・株主はどうなる?

株式併合は、企業側だけでなく投資家や株主にとっても大きな影響をもたらす施策です。

理論的には株主価値に中立ですが、実際には様々な側面で株主の権利や投資環境に変化が生じます。また、株式市場での評価や取引条件も変わるため、投資判断に影響する要素が複数ある点にも注意が必要です。

ここでは、株主・投資家の視点から、株式併合によって生じる具体的な影響について解説します。

株価や投資単位への影響

株式併合が実施されると、理論上は株価が併合比率に応じて上昇します。

たとえば10株を1株に併合する場合、株価は10倍になるはずです。しかし、実際の市場では、株式併合の発表から効力発生までの間に需給バランスや投資家心理が影響し、理論値通りにならないことも少なくありません。

投資単位(最低投資金額)については、併合と同時に単元株数の調整を実施するケースが一般的です。10株を1株に併合すると同時に単元株を100株から10株に変更すれば、投資単位は変わらないことになります。一方で単元株数を据え置いた場合は、投資単位が上昇するため、個人投資家にとっては売買がしにくくなり、取引機会が減少する可能性があります。

また、配当金については保有株式数が減少しても、1株あたりの配当は併合比率に応じて増加するため、理論上は受取配当金総額に変化はありません。ただし、単元未満株が発生した場合は、その株式に対応する配当を受け取れなくなることがあります。

上場廃止リスクとの関係性

株式併合は上場廃止と密接な関係を持ちます。

まず、株式併合自体が上場廃止の直接的な原因となるケースがあります。特に、スクイーズアウト目的で高い併合比率(例:100株を1株に併合)を設定した場合、少数株主の多くが端数株主となり、株主数が大幅に減少します。東京証券取引所の上場基準では、株主数が400人未満となれば上場廃止基準に抵触するため、意図的に上場廃止へ向かうプロセスとして株式併合を活用することがあります。

一方で、上場維持のための株式併合もあります。株価が極端に低迷し、上場廃止基準(東証では原則として30円未満)に近づいた場合、株式併合によって株価水準を引き上げることで上場廃止リスクを回避する対策としても活用されます。

株主にとっては、スクイーズアウト型の併合では投資の継続機会が失われるリスクもあるため、企業の真の狙いを見極めることが重要です。株式併合の公表後、株主総会での議決権行使や株式買取請求権の検討など、自身の権利を守るための適切な判断が欠かせません。

株式併合の具体的な事例

実際のビジネスシーンでは、株式併合がどのように活用されているのでしょうか。株式併合の意図や背景は様々ですが、大きく分けると「スクイーズアウト型」と「株価調整型」の2つに分類できます。

実際の事例を通じて、株式併合がどのようなビジネス戦略の一環として実施されるのか、そしてどのような結果をもたらしたのかを確認していきます。

スクイーズアウト型:パナソニックによるパナホームのTOBと株式併合

画像出典:パナホーム、社名変更で攻勢/需要創出へブランドも移行 | パナホームが社名を「パナソニックホームズ」に変更後の新ブランドロゴ。下は旧ロゴ | 四国新聞社(2018年3月30日)

2017年、パナソニック株式会社は、パナホーム株式会社(現パナソニック ホームズ株式会社)を完全子会社化するため、株式公開買付け(TOB)を実施し、その後、株式併合を行いました。

2017年8月31日に開催されたパナホームの臨時株主総会で株式併合が承認され、同年10月2日に効力が発生しています。この手法により少数株主を整理し、完全子会社化を実現しました。

この事例は、住宅事業強化という明確な戦略目標を達成するために株式併合が活用された典型例です。さらに、このプロセスにより意思決定が迅速化され、親会社と子会社間での利益相反問題も解消されることで経営効率が向上しました。

株価調整型:IHIによる株式併合

画像出典:株式会社IHI | IHI統合報告書 2024

これに対し、2017年に実施されたIHI(旧石川島播磨重工業)の株式併合は、10株を1株に併合する典型的な株価調整型です。

同社は株価が200円台で推移していましたが、併合後は2,000円台に上昇し、機関投資家にも投資しやすい水準となりました。同時に単元株数を1,000株から100株に変更したことで、個人投資家にとっての投資単位(最低投資金額)は変わらず、株主層に大きな変化をもたらさない工夫がなされています。

この事例は、市場評価改善や投資環境調整という戦略的意図で実施されたものです。同時に、この手法によって流動性が維持される一方で、企業ブランドや市場信頼性の向上にも寄与した事例といえます。

株式併合の本質と企業が果たすべき責任

株式併合は単なる数字上の操作ではなく、企業の経営戦略を実現するための重要な手段です。株価の適正化による市場評価の向上、管理コスト削減による経営効率化、スクイーズアウトによる経営の自由度向上など、目的に応じた活用が可能となります。

実施にあたっては法的手続きを遵守し、株主への十分な説明と公正な対応が不可欠です。特に少数株主の利益保護については、買取請求権や端数株処理の適切な実施が求められます。

企業側は戦略的意図を明確にし、株主・投資家は企業の真の目的を見極めることが重要です。株式併合は、企業と株主双方にとって最適な結果をもたらす施策として、今後も資本市場で重要な役割を果たすことが期待されます。

この記事をシェアする
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

「一社でも多くの廃業をなくす」をミッションとし、M&A・事業承継の情報をわかりやすく発信。
後悔のない選択をし、一社一社が星のように輝けるようにという思いを込めてお伝えしています。

目次